2015年7月27日月曜日

いろんな本屋へ行ってきた




一週間前の7月20日は、下北沢「B&B」さんの3周年記念日。
「毎日何かしらのイベントを店内で開催する」と宣言して、ほんとに
その通りだった同店のこの日の企画は、「本屋大放談」なるトーク
イベントで、3周年だから3本立てなのか、その1本目のゲストとして
お声掛けいただき参加してきた。5ヶ月ぶりの東京は、滞在時間
19時間ほどの日帰り強行軍だったが、思いのほかいろいろと充実の1日となった。

出番が11時からなので、打ち合わせの時間も考えたら、新幹線で当日
出発のスケジュールでは心配なのと、せっかくならば、少しでも東京を満喫
しようという魂胆もあり、ものすごく久しぶりに深夜バスを利用してみた。
パーキングの不味くて美味いうどんも楽しみに。

4時半着の予定が少し早まり4時過ぎに、なつかしの池袋東口到着。
始発の電車もまだなので、まずは一服しながらコーヒーでも飲めそうな
店を見つけて落ち着こうと辺りを徘徊してみたが、どうにも勘所が悪いので、
目に付くのはド派手な看板の飲み屋さんばかり。連休中だからかいつもこうなのか、
もうすぐ朝だというのに、酔って奇声をあげる者や今まさに吐こうとしている者、
自宅の布団のように道路で気持ちよく寝ている者等々があちこちにいて、
嘔吐物の匂いも鼻につく。眠らぬ街だよ東京。

「ヘンなのに絡まれたらどうしよう、町の本屋として・・」などと下らぬ妄想を
しつつ、トークのネタにでもなれば、くらいの気持ちでむしろ積極的に絡まれようと、
闇雲にその辺を歩いてみたが特に何も起こらないので池袋からおいとまして、
文京区方面へと歩き出す。

おっきな道から1本脇に逸れると細い路地や坂が無数にあり、いい感じに
緑の多い公園は意識的に維持されているのか、東京は街歩きが本当に楽しい。
ラジオ体操待ちで早い時間から集まっているおばちゃんたちのコミュニティを
いくつか見かけて和む。さっきの喧騒からせいぜい徒歩2~30分くらいの
場所なのにね。

時計を見ると、バスを降りてからすでに2時間以上経過している。すっかり
夜も明けたとはいえ、こんな早い時間からかなり暑い。普段ここまで歩く
機会がないので、早くも腿裏から膝にかけて痛くなりだした。完全になまっている。
東京ドームが見えた辺りで、そろそろ電車に乗ろうと駅に向かった。

★★★★★★★★★★★★

昨年の不忍ブックストリートで歩いた町を違うルートからたどってみようと、
総武線と山手線を乗り継いで日暮里駅でおりてみた。目的地は、この
時間帯から相手をしてくれそうな友人は1人しかいないという理由で、
朝7時から開店している谷中の「旅ベーグル」だ。

「なんか来る気がしていたよ!」と、たぶん適当だろうけどいつもの笑顔で
店主のマツジュン(MJ)が迎えてくれる。

普段、朝はパン食じゃないうえに、歩き回ってヘトヘト、喉もカラカラだし、
悪いけどベーグルなんていまは食べたくないんだよねと、自分で尋ねて来て
おきながら随分と失敬な客だが、MJはそんなことお構いなしにオレンジピール
入りのものをすすめてくるので、そんじゃまあと食べてみたら、これが思いのほか
美味かった。ぼんやり店の外を眺めながら、イスに座ってベーグルを食べていると、
すっかりリラックスしすぎて虚脱感に見舞われたが、その間もMJはなんだかんだと
ハイテンショントークを仕掛けてくる。その言葉を聞くともなく聞いていた。

「(ドヤ顔で)あのね佐藤クン、ベーグルは酵母で膨らむんじゃないんだよ。
みんなの笑顔で膨らむんだよ!!」

バカみたいだが(笑)、村上春樹の僕と鼠の三部作の「僕」ばりに、
「MJを中心に世の中がまわったらいいのに」とも思う。

「それ、あとでトークのときに使わしてもらうわ」と言うと、
「バカかと思われるからやめてくれ」とのことだった。

ときに、真面目な言葉が嘘くさかったり、くだらない冗談が心に響いたりする。

MJは毎日夜が明ける前から仕込みをする。開店時にはお客さんが
並んで待っていることもあるという。まだ人通りはまばらだが、今日も
このあたりは観光客であふれるのだろう。

★★★★★★★★★★★★

約束の時間よりも1時間ほど早くB&Bに到着した。今回事前の段取りで
お世話になったスタッフの安倍氏に案内され、打ち合わせをする喫茶店で
待機する。池袋でまず探したのはこういうお店だったのだ。落ち着く。

しばらくすると、一緒に出演する福岡市の「ブックスキューブリック」店主
大井実さんがいらっしゃった。初めてお目にかかる大井さんはやはり気さくで
頼もしい感じの方だった。北書店というネーミングをほめていただく。
ニイガタブックライト同様、大井さんも新刊書店を経営しながら「ブックオカ」
というブックイベントの実行委員でもあるので、その辺りのこともいろいろ
話そうと思ったが、なんてことのない雑談に終始してしまう、これはこれで
面白かった。「一字違いなんだよ」ということでなぜかオオヤミノル氏の話にもなった。

その後内沼さんも交えて軽く打ち合わせのつもりが、久々の再会なので、
引き続き雑談が彼是と盛り上がる。「まあまあこのくらいで後は本番で、
というのは本屋同士のイベントの定番か。それにしても嶋さんはどうした 笑

まもなく開始10分前となり、B&Bへ戻る。お客さんの入り具合を確認しながら
外で待機していると嶋さん登場。急いで来たのか汗だくだ。一年ぶりの再会で
開口一番、「あの飲み屋なのにクリーニング屋もやってる店(大倉酒店)は元気
ですか?」というのがいかにも嶋さんらしい。

キューブリック×北書店×B&B。「本屋大放談」というタイトルが付いた
このトーク、「私は北書店の5周年記念イベントのつもりでやります」と宣言して、
遠慮なく放談させてもらった。嶋さんにセンパイセンパイ言われたが、センパイの
自覚はまるでない。

書店内でのイベントを、日常へと繋げる非日常、という意味合いとして
捕らえたならば、毎日開催しているB&Bではもはやイベントこそ日常だ。
だからこの店に来て、お客に(というか私に)一番非日常性を感じさせる
ことといったら、内沼さんと嶋さんが揃って接客をして、せっせと棚を動かし
本を並べている風景なんじゃないかと提案してみたが軽く流された 笑  

そんなやり取りを交えつつ店内を見渡すと、明らかに棚の在庫が増えている
印象だ。やはり着実に店の体力をつけなければこうはならないはずだし、毎日の
イベント開催は、それだけ関わる人も多様になるから売り上げにも直結すること
なんだろう。在庫資金の調整って普段どこまで細かくやってるの?と、内沼さん
嶋さんに会うたびしつこく聞いてしまうが、どうかウザがらず、今後とも何か機会が
あればご一緒願いたい。個人的にはやりがいのあるトークだった。

最後の質疑で、この日参加してくれていた、「キャビネ・ファンタスティク」の
語り担当、路川さんから「本屋として嫉妬するほどの存在というのはあるか」
と質問があったので、個人店かくあるべし、の意味をこめ、本屋じゃないけど
今朝のMJトークを紹介した。(ということでMJごめん。使わせてもらったから)

2部~3部も興味深いトークが続き(「古書現世」の向井さんはやはりすばらしいな)
4時間超のイベントも終了、長丁場をお付き合いいただいたお客様に大感謝。
この後すぐ別のイベントが控えているとのことで、B&B3周年も瞬く間に過ぎ去って
いく。内沼さんも嶋さんも、とにかく日々慌しいだろうけど身体だけは大切に、と思う。

★★★★★★★★★★★★

3部の古本屋さんトークに登場した、代々木上原の「ロスパペロテス」店主、
野崎さんの案内で、B&Bから徒歩数分のビルの地下にある立ち飲み屋さんで
打ち上げ。野崎さん、向井さん、路川さん、お客で参加してくれた木村衣有子さん
ご夫婦と乾杯。このシチュエーション、この面子、なんとなく察しはついたが、
あたりまえのように本番以上の大放談が待っていた。

濃厚な飲み会終了後、店番を交代するという野崎さんにくっついて
代々木上原までご一緒する。買い物、観光客風、犬の散歩をする家族連れ、
仕事帰りの人など、往来に適度な活気があり、この場に身を投じているだけで
楽しい。「ここでよく岡本さんが餃子食べてるんですよ」と、岡本仁さん御用達の
餃子屋さんの前を通過する(岡本さん元気かなあ)。今度ここ来よう。ほかにも
気になる飲み屋が目に付いた。

東京での商売は夕方以降の時間が長い。普段の生活ではまずありえない
昼酒の心地よさも手伝ってか、ロスパペロテスでの買い物がとても楽しかった。
品揃えや棚の構成など、好みの本屋基準は人それぞれだが、自分としては
お客さんとの親和性とか、そこに流れる空気のようなものに注目したい。
本を抜きつ差しつつページをめくる音、会計でのやり取りやレジの音、外から
聞こえてくる会話などが混ざり合い、ふとした瞬間にできあがる空気。目には
見えない流れに乗って、なにか1冊買って帰りたくさせるのだ。さっきの路川さんの
質問、俺いまこの店に嫉妬してるかも。東京へ行くときは必ず立ち寄りたい
場所が増えた。

代々木上原で立ち寄りたい場所といえばもうひとつ。もちろん「幸福書房」だ。
入り口の雑誌コーナーや、発行部数の少ないものも含めて、新刊を中心に
きちんと手がかけれられた棚、本屋大放談には絶対出そうにない、物静かな
ご主人の佇まいも、これまで何度か脳内再生してきたイメージと重なる部分が多い。
実用書や雑誌が収まった什器の下段に、わりと専門寄りのデザイン関連の
本が、店のバランスを考えるとかなりの数揃っている。おそらく出版関係の
お客さんも贔屓にしているんだろう。そういえば嶋さんが本屋の話をするときは、
必ずこのお店の名前が挙がる。曰く、「店主のおススメ本は2冊差し」とのことだが、
棚差し用の地味渋な新刊の仕入れ冊数がだいたい2~3冊なのではないか。
15坪くらい(?)の店内を何周もしてしまう。ロスパペさんへ向かうときと反対側、
これは何口になるんだろう?駅の改札が目の前だ。駅を出てすぐ、目の前には
幸福書房という、この町に住む人たちの日常を想像してみる。余所者の目には、
蛍光灯で白く照らされた姿はまさに幸福の光のように映る。いい本屋を見つけると
嬉しくなるが、それを通り越して、すぐにでも自分の店に戻りたい、と思わせるような
お店が稀にあるのだ。いままさに、そういうお店に立っていた。新潟に帰りたい。

★★★★★★★★★★★★

ここまで付き合ってくれた路川さんと別れたあと、今日で閉店してしまう
「リブロ池袋本店」の取材(?)から戻ってきた石橋毅史さんと合流する。
帰りのバス時間まで、近況報告がてら飯でも食おうという算段だ。
ちょっと寄ってみない?という提案を断る理由も無い。石橋さんに連れられて
リブロへと向かう。閉店まであと少しの店内はお客さんで溢れている。お店の
影響力を考えれば当然のことだ。顔見知りの版元関係者に何度も遭遇し、
その都度「なにやってるんですか?」と聞かれる、そりゃそうだ。

期間限定で店内に復活していた「ぽえむぱろうる」を見られなかったのは残念
だった。先日初めてお会いした石神井書林の内堀弘さんとばったり会う。展示
品の撤収で来られたそう。「いい本屋は全部厳しいから、あなた頑張ってね」と
ストレートなお言葉をいただく。

「最後尾はこちら」の看板は、まだまだレジまで届きそうもないが、せっかくなので
すべてが終わるまで立ち会うことにする。2010年1月31日、北光社最後の日も、
規模こそ違うがこんな感じで、「閉店の時刻ですが、そのままゆっくり本をお選び
ください」と、アナウンスを流したら拍手が起こったことを思い出す。

日中は、大放談トークに参加してくれていた「信陽堂編集室」の丹治史彦さんに
 「リブロにきちゃいました」とメールを送ったら、目の前に丹治さんがいた笑。
同系列の出版社、「リブロポート」から編集人生をスタートした丹治さんにとっても、
この閉店にはなんともいえぬ感情があるのだろう。「佐藤さん、これからもよろしく
お願いします」と言われ、それはズバリこっちのせりふなので、いろいろ話をしたかったが、
あまりの人ごみでそのまま別れた。思えばあの日も丹治さんは、高速バスで新潟まで
駆けつけ、北光社閉店の最後の最後まで立ち会ってくれたのだった。

閉店時刻を過ぎたが、レジ付近は会計が済んだ後も帰ろうとしないお客さんで
ごった返している。皆なにかを伝えたそうな顔だ。お店の方たちの集合写真撮影で、
皆一斉にスマホをかざす。通話用のケータイしか持たない自分はその様子をただ
眺めていた。「こういうときだけ騒ぐやつらは嫌いなんだよ」と、これ見よがしに言いながら
通り過ぎる若者がいたが、「お前はそういうけど、誰にも騒がれなかったらそれそれで
気味が悪いぞ」と、内心その若者に突っ込んだ。みんな優しいんだよね、本屋好きは
特にね。ということでどうだろう。だめ?

すこし落ち着いてきたタイミングで、石橋さんにリブロスタッフの辻山良雄さんを
紹介していただく。「これはもう無効なんですけどね」と、お店での肩書きが入った
名刺を閉店直後にいただくのも味わい深い。辻山さんは、今後はリブロを退職し、
ご自分で本屋を始めるそうだ。慌しい状況にもかかわらず、突然の来訪者にも
丁寧にお話いただき恐縮する。自分が北書店をつくった頃のことを思い出すと
息苦しくなるが、辻山さんのお店は、間違いなく素晴らしいだろうな。こちらが
嫉妬するようなお店が、いつかできるに違いない。

今回の東京日帰りツアーを、高速バスで計画したのは正解だった。11時 から
という、珍しい日程を組んでくれたB&Bさんのおかげもあって、いろんな本屋を
見てまわれたのがよかった。場の力を最大限利用し、従来の街の本屋の枠を
超え、精力的に活動する店もあれば、来る日も来る日も淡々と商売を続け、
その町の風景に完全に溶け込んでいるお店もある。かといって全く違うかというと
そうでもなく、どちらも結構同じ本を推していたりする。
 歴史ある大型店が店を閉じる瞬間に、たまたま立ち会った同じ場所で、これから
はじめるお店の話を聞かせてくれる人がいた。無くなりゆくものをきっかけに、新たな
ご縁が生まれることは、自分も5年前に経験した。なにかつけ、出版不況の一言で
片付けられてしまうが、本屋をめぐる世界は、今日も少しずつ更新されている。

★★★★★★★★★★★★

夜行バスの発車時刻まであと1時間半あまり、今朝、ひとりで彼方此方徘徊した
辺りの適当な店に入りようやく落ち着く。ここいらの飲み屋はリブロの皆さんも利用して
いたのかしら。石橋さんとふたり、焼きそば、焼き鳥、ポテトフライ、寿司という、でたらめ
メニューで乾杯。長い1日を振り返る。

「古書現世」の向井さんがこの日のトークで、「文化がどうとか考えるより、目の前の
古本の山を裁くのに必死ですよ」(大意)と話されていて、これには全く同感だった。
本屋というのは、とかくそういう「町の文化スポット」的イメージを植えつけられる。

しかし向井さんが言うように、北書店での5年間も、納品書と請求書が飛び交う

うちに瞬く間に過ぎた。「自転車操業」という言葉を最初に言い出したのは誰だ。
うまいこと言いやがる(笑)。ただそうやって過ぎていった5年間は、たかが知れて
いるとはいえ、それなりにいろいろあった時間であることも事実だ。文化度高めな、
教訓めいたことは何ひとついえないが、これから先も、確かに自分が経験したその
事実のみを積み重ねていきたい

この1週間遅れの延々と長いブログも、目の前で見たこと起きたことを書いて何の

オチもなく終わる。飲み屋を後にし、行く先々で購入した本を抱えバス停まで歩くとき、
疲労と筋肉痛で足がガクガクした。乗り込んだバスが発車した10分後には爆睡し、
ものの見事に一度も起きず、気がついたら終点だった。数時間後に店を開け、
しばらくレジでボーっとしていたが、お客さんがわりと多くて気を取り直す。常連さん
とのいつもの会話を心なしか新鮮に感じたが、自転車操業は変わらない。

これから先も、おそらくこんな調子で過ぎていく。旅ベーグルのMJのように

「みんなの笑顔で北書店があるんだよ!」という店主には多分なれないが、
今後とも気長にお付き合いいただけるようにがんばりたいと思う。

おしまい。